朝食会場は地上階(日米式だと1階)で運河に面したテラスもあるのだけど、朝から雨が降っているので外に出ている人はいない。宿を出て駅前広場に行こうとしたら、路地が狭いので列車から降りて来た人並みとすれ違うのに一苦労。アックア・アルタ(aqua alta)と呼ばれる冬場の水位上昇に備えた仮設歩道の資材が、さらに道幅を狭くしている。時刻表によると2系統の水上バスはこの時間、サン・マルコゆきと途中のリアルト(Rialto)止まりが交互に来るはずなのだけど、リアルト止まりが連続して来たので、仕方なくサン・マルコ広場までの残り区間を歩くことにする。といっても運河経由だとかなり大回りになるので、実は歩いた方が早かったりする。運河や水路を中心に街が出来ているヴェネツィアでは、陸上の道はどうやら補助手段でしかないらしく、細い路地が迷路のように入り組んでいて、大通りというものが殆どない。ただしサン・マルコ広場やサンタ・ルチア駅などの主だった場所への標識は至る所に出ているので、地図を見なくても迷うことはない。
という訳であっさりとサン・マルコ広場に到着し、ドゥカーレ宮殿(Palazzo Ducale)前の行列に並ぶ。アーケード状になった建物の端だったので雨に濡れずに済んだし、気温もこの時期としてはだいぶ低くても昨日購入した防寒着があるので問題なし。開館時間となり、窓口でチケットを購入してから、見学順路を進む。一部区画は修復工事中だったようだけど、総督の政庁の主だったところは見学可能だった。大評議の間には、世界最大の絵画と言われるティントレットの「天国(Paradiso)」が展示されている。渡り廊下状の「ため息橋(Ponte dei Sospiri)」を渡って、小さな運河の対岸にある牢獄区画を経由してから、再び宮殿側に戻ったところで順路は終わりとなる。
外に出ても雨が降り続いていたので、建物の内部見学を続行~ということで、水上バスに乗って、アカデミア美術館(Gallerie dell’Accademia)に行こうとしたら、同名の橋の近くの入口の場所が分からずに建物の外側を一周することになる。ヴェネツィア派絵画のコレクションが中心で、ベリーニやティツィアーノ、ヴェロネーゼなどの作品が並ぶ。館内はそれほど広くなくて時間に余裕があったので、順路を2周して印象的だった絵を再度鑑賞。
美術館の建物を撮影してから、水上バスでリアルトに移動。大運河には架かる橋は4つあり、そのうち一番古いのがリアルト橋(Ponte di Rialto)。フィレンツェのヴェッキオ橋と同様、橋の上の 両側に店舗が並んでいるが、ここヴェネツィアでは下に船を通すために結構急な太鼓橋となっている。工事中なのか外側はシートで覆われているので、写真を撮っても今ひとつ。ガイドブックを頼りに近くの店に入って、早めの昼食ということで、ここでもタリアータとグラスの赤を注文。
ヴェネツィアでは珍しく幅の広くて真っ直ぐなノヴァ通り(Strada Nova)を歩いて次の目的地へ。といっても5メートル幅なので、他の街ならちょっとした商店街くらいになるところ。ヴェネツィアの建物は運河側が正面になるため、船からは目立つ建物でも、陸上からアクセスすると入口を狭い路地の間に探すことになる。カ・ドーロ(Ca’ d’Oro)はパラッツォ・サンタ・ソフィア(Palazzo Santa Sofia)が正式名称だが、かつての豪華な装飾から“黄金の館”と呼ばれている。15世紀に建てられたゴシック様式で、現在は美術館として公開されている。各部屋に展示された絵画を鑑賞しつつ、見事な装飾のテラスから大運河を眺める。続いて水上バスに乗ってカ・レッツォニコ(Ca’ Rezzónico)に向かったが、乗船場のすぐ隣だったが直接繋がる橋が通れないようになっていたので、一旦陸上の細い路地を進んで小さな運河を渡り、だいたいこの辺りかな~と思ったら曲がるところが一つ違っていて、小さな運河沿いに歩いた先にようやく入口を見付ける。こちらも美術館として公開されているが、内部はかなり広くて、調度品や食器などの展示フロアの他に、絵画のみのフロアが2つ。カナレットの絵も2枚あったので、とくと鑑賞。カメラ・オブスクラを用いて、各地の街並みを写真のように正確に描いている画家だが、特にヴェネツィアの絵が多い。これまでニューヨークやロンドンで見た絵でヴェネツィアへの憧れを募らせていただけに、現地で出会えて感慨もひとしお。
いつしか雨も止んでいたが、4つの建物の中を歩いて結構疲れていたので、一旦宿で休憩してから夕方前に出直す。水上バスでジッリョ(Giglio)に行って、周辺を散策してから指定時間の少し前にゴンドラ乗り場へ。雨が降っていたら大変だなと思っていたら、予想以上に天気が回復して、空の一部には晴れ間が出ている。7人用のゴンドラに乗って大運河に漕ぎ出す。同時出発のうち1隻に歌手とアコーディオン奏者が乗り込んで、他のゴンドラが周囲を取り巻きながら進む。歌は「オーソレミオ」「サンタルチア」などの、カンツォーネのスタンダードナンバー。ゴンドラの一団が狭い水路に入ると縦列になるため、歌は遠くからかすかに聞こえるだけになる。見上げてみると建物の壁に、通り名のように水路の名前の標識が掲げられている。また、水路に面した船用の玄関に、宿屋の古びた看板も出ている。やはり水運の街なのだということを、改めて実感。船着場に戻った後は、水上バスに乗ってローマ広場経由で宿に戻る。夜は駅構内の売店で調達した軽食で済ませる。