2008/12/26(金)

英国文化圏では今日もボクシングデー(Boxing Day)という祝日である。なんだか格闘技を祝う日のように聞こえるが、贈り物が入った箱(box)を渡す習慣に由来するのだとか。昨日のように店が閉まっているかどうかは不明だが、今日は食事付きのツアーに参加するので心配はない。実際は買い物に出掛ける日になっているということを後から知る。指定時刻の午前7時少し前にホテルのロビーに降りて待っていたが、なかなか担当者が現れない。少々遅れるのはよくあることだし、30分待っても来なかったら連絡してみようかなと思っていたら、15分遅れで声が掛かる。小さなバスに乗って旅行会社の営業所で一旦下車し、窓口で名前とツアー番号を確認してステッカーを貰い、ハイデッカーの大型バスに乗り換える。乗車率は半分強だったので、後方の窓際に一人で座る。

オークランドを出発して、高速道路に乗って南に向かう。街の郊外で今日もジャカランダをちらほらと見掛ける。今朝になって予報は「晴れ」に変わり、空には雲が殆どない絶好の観光日和となった。運転手から道々観光案内のアナウンスがあるのだけれど、ニュージーランド英語(Kiwi English)のせいか、注意して聞いていないとついていくのが難しい。添乗員が昼食の注文を聞きに来た後で、モーニングティーが供される。英国文化圏なのでこの場合の“ティー”というのは当然、軽食も含んでいるのである。バスは町や村を通り過ぎながら平原を走り、3時間近く掛けて最初の目的地であるワイトモ洞窟(Waitomo Cave)の入口に到着。

ワイトモ洞窟

ここはツチボタル(glowworm)で有名で、洞窟ガイドの案内に従って山中の道を辿って鍾乳洞に入る。“そこに落ちてる大きな岩は先週崩れたものです。というのは冗談で、数千年前を最後に崩落はおこっていないから安心して下さい”とガイドは名調子なのだが、コテコテ(?)のニュージーランド英語なので聞き取り辛い。"today"が“トゥダイ”になるのは知っていたけれど、“クィースチャン”が"question"のことだというのはなかなか分からなかった。石筍や氷柱石(英語だとstalagmiteとstalactiteになるから区別し辛い)はまばらだったが、天井はかなりの高さである、洞内は撮影禁止で、照明も薄暗い程度である。奥はさらに暗くなっていて、ガイドが懐中電灯を消すと、ツチボタルがまばらに光っているのが見えてきた。“ツチボタル”という和名から、明滅するものと勝手に想像していたが、明るさが変わらない青い光だった。一段と低くなっている天井を懐中電灯で照らすと、沢山の糸が垂れ下がっているのが見える。実は光っているのは蚊に似た昆虫の幼虫で、光で獲物をおびき寄せて粘り気のある糸で捕獲するとのこと。徒歩見学が終わったところで洞内の船着き場へ。ここからは船に乗ってツチボタルが群生する暗いトンネルを潜ってゆく。櫂を使うのではなく、洞内に張り渡されたロープをガイドがたぐり寄せるようにして進むのである。天井には無数の青い光が帯となり、目映いばかりに散りばめられている。さながら天の川のようであるが、星空とは違って同じ色の明るさが揃った光で、互いに近付き過ぎないように間隔をあけているので、イルミネーションのようでもある。幻想的な“地下宮殿”を5分くらいで通り抜け、表に出たところで下船して駐車場まで別の道を歩いて戻る。

次の目的地に向かう途中で昼食が配られる。今日は一日中長距離移動が続くので、食事は全て車内になるのである。メインはカレー味のチキン。あいにく山道を走っているところだったので、バスはかなり揺れている。振り子式列車や揺れる機内で食事した経験ならあるけれど、バスだと加減速や急カーブもあるので、食べ辛いのなんのって。でもそのうちこぼれるのじゃないかと心配だったので、早めに食べ切る。

羊毛刈りショー

火山活動の名残で盛り土のような起伏が続く場所を通って、約1時間でロトルア湖(Lake Rotorua)の近くにあるアグロドーム(Agrodome)に到着。トラクターに牽引された客車に乗り換えて、牧場の中をゆっくりと巡る。柵の中にいるダチョウや牛、豚などを順に眺めた後は、車を降りて羊たちに取り囲まれる。続いては牧羊犬に3匹の羊を規定通りに追わせる競技の実演を見てから、羊毛刈りショーを見学。この作業は今でも機械化出来ないそうだが、熟練した人だとものの3分と掛からず、羊の丸刈り一丁上がり。最後に羊毛を加工する古い機械の説明を聞いてから、牧場を後にする。

歓迎の儀式

ロトルア湖畔に出て、ガバメント・ガーデン(Government Gardens)の中を通過するが、残念ながら湖はずっと反対側の車窓だったので撮影は断念。バスはそのまま走り続け、ロトルアの中心部を出てすぐのところにあるテ・プイア(Te Puia)に到着。「テ・プイア」とはマオリの言葉で間欠泉を意味するが、地熱地帯にあるマオリ文化を伝える観光施設に付けられた名前である。昼過ぎから雲が多くなりついに雨が降り出したが、まずはマラエ(marae)と呼ばれる集会所で、伝統的な歓迎の儀式を見学。靴を脱いで入る建物は、外側の要所要所に彫刻が施されているが、中は一面の彫刻で埋め尽くされている。最初の歌には明確なメロディーがなかったが、2曲目以降はギターを伴奏にしたコーラスになった。手の振り付けが特徴的な踊りや、紐や棒などの道具を使った踊り、戦闘の踊りが続いた後、マオリの恋歌でコンサートは終了。

ポフツガイザー

集会所を出る頃には雨は小降りになっていて、暫くすると止んだ。施設ガイドの案内に従ってマオリ文化の展示を見学してから、両脇に亜熱帯植物の生い茂る遊歩道を歩いて、施設名の由来となった間欠泉、ポフツ・ガイザー(Pohotu Geyser)へ。あちこちからもうもうと湯気が上がっている岩場は硫黄成分で覆われていて、日本なら「地獄谷」とでも呼ばれそうな風景である。1日に十数回吹き上げるそうだが、数分間の滞在でそう都合良く出て来る訳はない。平均すると1時間に1回くらいになるが、間隔は一定していないらしい。続いてぼこぼこと泡がはじける泥の池を見てから、遊歩道を辿って施設に戻る。時々見晴らしの良い場所に出るが、森のあちこちから湯気が上がっているのが見える。通り道にあったシダがぜんまい状の新芽を出していたが、これが"Koru"という「始まり」や「成長」を意味するマオリのデザインの原型で、ニュージーランド航空のシンボルマークもそれを元にしたものである。ここにもマオリ集落の復元やキウイハウスがあったが、暫く待ってみても2匹いるはずの鳥は全然姿を現さない。ガイド曰く“今日はボクシングデーだから、きっと買い物に出掛けているのだろう”(笑) 最後に彫刻や織物の工房を見学してから外に出る。

帰りのバスでイブニングティーが出た後は、オークランドを目指してひたすら走り続ける。天気は次第に回復して青空が広がるようになったが、この辺りでは雨が降らなかったようだ。観光ガイドのアナウンスは映画「ロード・オブ・ザ・リング」で“ホビット庄”の撮影地となった近くを通った時くらいで、車内は基本的に休憩モード。約4時間でオークランドに到着し、最初に停まったホテルの前で小型車に乗り換えて宿泊先まで送って貰う。合計所要時間は約13時間半。距離的には大阪を出発して名古屋と富山を回って日帰りするようなものだから、かなりの強行軍だったけれど、北島の有名観光地を効率よく巡ることが出来た。