2009/04/27(月)

寝台車の朝食

翌朝7時頃に起床すると、列車はコーンウォール(Cornwall)地方の中心都市プリマス(Plymouth)付近を走行中で、窓の外では雨。日本の旧国鉄型の寝台車に比べると、加減速時の衝撃はずっと少ないとはいえ、1時間おきに目が覚めてしまう浅い眠りだった。寝台車の乗客にはパンと飲物の朝食が出ることになっていて、午前8時頃になると前夜注文しておいたクロワッサンと紅茶を車掌が運んできた。隣のラウンジ車が寝台車の乗客に開放されていたようだが、荷物や鍵のことを考えると面倒なので、個室内でぼーっとしながら過ごす。ロンドンから終点まで昼間だと5時間半で到着するが、夜行列車は時間調整をしながら8時間、日曜発のみ9時間を掛けてのんびりと走ることになる。という訳でペンザンス(Penzance)には午前9時に到着。パディントン駅から発車する長距離列車の一番遠い行き先で、いつかは訪ねてみたいと思っていたイギリス最西端の駅にようやく来ることが出来た。屋外の4番線の車止めには「ペンザンスへようこそ」と英語とコーンウォール語で刻まれている(Penzance welcomes you/PENSANS A'GAS DYNERGH)。因に英語でペンザンスを発音する場合は、アクセントは後ろになる。

駅前に停まっていたタクシーに乗って、今夜から泊まる予定のホテルに向かう。フロントでスーツケースだけ預けるつもりだったが、この時間でも部屋が用意出来るとのことだったので、チェックインして部屋で荷物を詰め直してから出掛ける。宿から駅までは徒歩20分くらいだが、街の中心部が丘になっているので、最短ルートは坂を上がって下ることになる。幸い雨は上がっていた。予想よりも早く駅に戻れたので、一本早いクロスカントリー社運行の列車に乗ることが出来た。各座席の指定状況を電光掲示で確認して、目的地の先まで空いている席を探して座り、セント・オーステル(St. Austell)までは約1時間。寝台列車をここで降りた方が時間効率は良かったのだけれど、よほど都会の大きな駅でもない限り荷物を預けることは出来ないようなので、一旦終点まで行ったのである。

エデンプロジェクト

バス乗り場はすぐに見付かったが行き先表示が出ていなかったので、運転手に確認してから入園料込みの乗車券を購入。内陸の方に向かうバスに揺られること20分で、エデン・プロジェクト(Eden Project)に到着。バス停のある駐車場から入口まで少し歩くことになる。エリカの咲く道を歩く途中で少し雨が降ったものの、すぐに晴れ間が出て来た。窓口で乗車券を見せて入園証のシールを発行して貰い、ビジターセンター内にある入口を通って園内に入ると、眼下には陶土採掘場跡を利用した複合環境施設が広がっていた。2001年の開業直後に機内誌で紹介記事を読んで以来、一度は来てみたいと思っていたのがようやく実現した訳である。バイオーム(Biome)と呼ばれる巨大温室は、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)製の六角形(一部五角形)が組み合わさって出来たドームが寄り集まっていて、まるで宇宙基地のようである。窪地は緑に覆われ、周囲の山肌にはエニシダの橙色。展望デッキからの眺めを楽しんでから、谷間に架かった吊り橋を渡って最近出来た"The Core"という名前の教育施設へ。まずはここのカフェで食事をと思っていたのだが、生憎本日休業だったので、館内の展示をざっと見学してから窪地の底を目指す。園内には様々な素材を用いたオブジェが各所に配されているけれど、生物っぽい巨大ロボットは宮崎アニメに出て来そうだなぁや。2つのバイオームをつなぐ"The Link"にあるレストランは営業中だったので、ソーセージのプレートと紅茶を注文。付け合わせのコーンウォール風マッシュポテト(Cornish mashed potato)って、どの辺がコーンウォール風なのかと思ったら、粒マスタードが入っていることが特徴のようだった。

湿潤熱帯バイオーム

2つあるバイオームのうち巨大な方、「湿潤熱帯バイオーム(Humid Tropics Biome)」から先に見学。こちらは高さが55mで、大きさも100m×200mとなっている。バイオームに支柱はなく、天井は見上げるばかりの高さで、奔放に茂る熱帯雨林の植物で埋め尽くされている。水平方向に広いだけでなく、内部にはかなりの高低差があって、川の上流は大きな滝になっていたりする。そして世界各地の熱帯植物の育成展示に留まらず、有用作物を地域別に紹介したり、家屋や畑まで再現してある。それにしても中は半端でなく蒸し暑い。しかもぐねぐねと続く順路を歩くと30分以上掛かるので、上着を脱いでもすっかり汗だくになってしまった。続いて訪れた「温暖温帯バイオーム(Warm Temperate Biome)」の方は、先程のバイオームに比べると随分涼しく感じる。湿度は低くカラッとしているので、熱帯雨林の後だと非常に心地良い。訪れる順番が逆でなくてよかった(^o^;) こちらは地中海式気候を想定していて、入口付近にはアイリスやチューリップ、アマリリスなど色とりどりの花が咲き乱れている。オリーブやブドウ、オレンジなどの有用作物はこちらにもある。順路を辿って見学しているうちに、何やら天井の方で大きな音がしているのに気が付く。最初は撒水でもしているのかと思っていたが、外は土砂降りになっていて、それが天井を叩く轟音が響き渡っていたのだった。陽が射したままの大雨だったので、暫くそうとは気付かなかった。外に出る頃には雨はすっかり止んでいて、晴れの天気に戻っていた。帰りは地元の畑やカウスリップ(cowslip)の咲く野原を再現した斜面をゆっくりと登る。この辺りは大消費地であるロンドン都市圏から遠く離れているため、温暖な気候を利用した促成栽培で輸送コストの不利を克服したのだとか。

セントアイヴズ


バスの時間にちょうど間に合うようにバス停に戻ったつもりだったが、ネット掲載の時刻表とは異なり次のバスまで30分以上あることが判明。しかし別会社のバスがすぐに来たので、帰りは別ルートで駅に戻る。早く駅に着いたところで次の列車は30分以上先なので、結局どちらのバスに乗っても変わらなかったりするのだけどね。そのままペンザンスに戻っても夕食には早過ぎたので、途中のセント・アース(St. Erth)で下車して支線の列車に乗り換える。といってもここでも乗り継ぎが良くなくて、30分近く待たされることになる。ホームに吹く風は強く、そのうち雨まで降ってきてかなり肌寒く感じる。ようやくやって来た折り返し列車はすぐの発車で、本線と分かれて北の海岸を目指す。雨は途中で止み、車窓かには海の景色が広がる。10分と少しの乗車で終点のセント・アイヴズ(St. Ives)に到着。片面ホームの駅は高台にあり、一旦浜辺に降りてから展望台となっている公園を通って、街の中心まで歩く。この辺りの建物はいずれも暗灰色のスレート(粘板岩)葺きであるが、殆どが橙色の地衣類に覆われているため、オレンジ色の屋根が連なっているように見える。セント・アイヴズは芸術家の集まる街として知られ、美術館やギャラリーが多いらしいが、寝不足で疲れていたので海岸通りまで街並みを散策しただけで、駅に引き返してセント・アースゆきの列車を待つ。またしても雨が降り出したがすぐに止み、帰りの列車の車窓からくっきりとした二重の虹が見られた。

今度は15分足らずの乗り継ぎで、ペンザンスゆきに乗り換える。宿までの帰る途中で少し寄り道して、"The Turks Head Inn"のパブで夕食。壁の黒板に書かれた食事メニューは達筆で読みづらかったが、その中からポークグリルを地元のエール(ale)と一緒に注文。この店のマッシュポテトには粒マスタードは入っていなかった。前菜またはデザートと一緒だと単品よりも易くなるとのことだったので、食後はアップルパイのカスタードクリーム添え。店の外に出る頃には暮れ始めていたが、駄目押しのように本降りの天気雨と虹。宿まで歩く間にちょっと濡れてしまったが、今日の観光に雨はほとんど支障なかったのだから、幸運だったといえよう。とにかく寝不足が続いていたので、シャワーは翌朝に回して部屋に入るや即座にバタンキュー(-_-)Zzz...