2009/08/25(火)

レイキャビク植物園

今日も明け方に雨が降り、朝食後には雲に切れ間が見えるようになっていたが、支度を整えて外に出てみると小雨になっていた。今日の午前中の市内観光は東方面ということで、まずは宿の近くにあるホフディ・ハウス(Höfði)へ。海辺に建つ小さな家だが、1986年10月に米ソ首脳会談が行われた場所なのである。内部は非公開なので外観のみの見学。入口には英語、アイスランド語、ロシア語で書かれた記念碑が並んでいた。そのまま東に歩き続けていたら、次第に雨が強くなっていった。本降りというほどでもないのだが、風が強くて傘を差していても足下が濡れてくる。歩き続けている間は寒さを感じないといっても、これ以上雨が強くなったら辛いかも~と思った頃には既に道程の3分の2まで来ていたので、そのまま歩き通すと幸い風雨は弱まっていった。ロイガルダールル公園(Laugardalur)に入ってから少し迷ったが、程なく目的地のレイキャビク植物園(Grasagarður Reykjavíkur)に到着。敷地はそれほど広くなかったが、水辺の庭園や温室、ロックガーデンやキッチンガーデン、分類花壇などがあった。シオンやリンドウ、マツムシソウなど見慣れた植物の仲間が多かったが、中には何の仲間か調べるのが難しそうなものもあった。

帰り道の途中で雨が上がり、湾の向こうのエーシャ山方面には日が当たるようになっていた。ホフディ・ハウスの近くの喫茶店に入って昼食を取った後、宿に戻って部屋で少し休憩してから、今日もロビーで予約していたツアーの送迎を待つ。昨日と同じく旅行会社で手続きを済ませた後は、ツアー番号の書かれた車に乗ってリングロード(Hringvegur)を北に向かう。エーシャ山の近くを通って、“鯨の湾”を意味するクヴァルフョルズル(Hvalfjörður)をトンネルで潜り、ボルガルフョルズル(Borgarfjörður)に架かる橋の手前で湾岸から“白い川”を意味するクヴィータウ(Hvítá)沿いに遡る道に入る。途中一回の小休憩を挟んで1時間半走り続け、最初の目的地デイルダルトゥングクヴェル(Deildaltunghver)に到着。既に天気はすっかり回復していた。

ここはアイスランド最大の温泉というので、見渡す限りの湯煙を想像していたのだけれど、丘の周囲に沸き出す温泉は、別府の地獄巡りの小型版といったところ。どうやら最大というの湧出量のことで、それも太いパイプラインで市街地に供給されているため、表に現われているのはほんの一部に過ぎないようである。ここで4輪駆動車を乗り換えて別ツアーの客とも合流し、ガイド兼運転手 と合わせて総勢7名のツアーが始まる。ガイドの陽気なお姉さんは巻き舌をきかせた英語のマシンガントークで、ジョークを交えつつ次から次へと説明してくれる。因にアイスランドの公用語はアイスランド語であるが、早くから学校でデンマーク語と英語を習うため、アイスランドの人は3カ国語を自在に話せるようである。また外国から帰化した人の家系以外は苗字を持たず、名前+父称がフルネームになるとのこと。さらに上流に向かう道の途中で、「スノリのエッダ」で知られる13世紀の詩人スノッリ・ストゥルルソン(Snorri Sturluson)ゆかりのレイクホルト(Reykholt)の近くを通過したが、時間の都合なのか停車せず、車窓から教会が確認出来ただけである。

フロインフォッサル

次に停車したのがフロインフォッサル(Hraunfossar)のすぐ近くだったが、集合時間に遅れないよう隣のバルナフォッサル(Barnafossar)から先に見学。バルナフォッサルは岩の間の急流で、“子供達の滝”という名前は昔ここにあった橋を渡っている時に流された兄弟に因むとのこと。“溶岩の滝”を意味するフロインフォッサルは、その名の通り溶岩の間から伏流水が顔を出し、幅広の滝となって川に注ぐという、雄大かつ独特な景色である。2つの滝を見学した後はさらに山の中に入り、4駆でしか走れない砂利道の旅となる。まばらに生えていた低木もやがて見られなくなり、あたりは一面の溶岩の原野になる。なお、アイスランドの森林面積は国土の1%にも満たず、草地と氷河が1割ずつで、残りの8割は荒野になっているが、活火山が多いことから「火と氷の国」とも呼ばれている。荒涼とした川沿いには丸い石が転がっているので、日本人なら賽の河原を連想するところだが、月面に似ているということでアポロ11号の乗組員が、アイスランドに歩行訓練に来たらしい。途中で随時撮影停車を行いながら、“寒い谷”と呼ばれるカルディダールルに入り、さらに枝道の果てるところまで行くと、本日のハイライトとも言うべきラングヨートル(Langjökull)、即ち“長い氷河”へ。

氷河の先端

氷河といえば先程からエイリクスヨートル(Eiríksjökull)が遠くの山の上に覆い被さっているのが見えていたが、ここは車を降りたらすぐ目の前にどどーんと、氷河の先端が広がっている。青空の下に果てしなく続く氷の斜面を見上げるのは壮観である。氷河を渡ってくる風は身を切るような冷たさで、氷の上に足を踏み入れると真冬並みの寒さとなる。一応上着を持ってきたものの、装備としては初冬用だったので10分の見学時間を耐えるのがぎりぎりだった。夏場なので氷の表面はざらざらとしていて、普通の靴でも大丈夫だった。融けた水が蛇行した流れを作っているが、ここでもやはり温暖化の影響で氷河は年々後退していて、近くに大きな滝が現われる期間が長くなっているらしい。

プレートの境目

カルディダールルに戻って南に進むうちに天気が崩れ、一時は本降りになったが峠を越す頃には二重の虹が現われていた。3時間続いた砂利道が終わって舗装道路に入り、シングヴェトリル(Þingvell)国立公園のサービスエリアで休憩。アイスランドはプレートの境界にあるため火山活動が盛んなのであるが、プレートがぶつかり合う日本とは逆に、北米プレートとユーラシアプレートが分かれている場所である。国立公園内にあるシングヴァトラヴァトン(Þingvallavatn)湖畔の断崖がその境目で、それと並行する小さな崖が幾つも続いているのが、プレートテクトニクスを物語っている。断崖にある人口の滝まで車で行った後は、昔アルシングが開催されていた場所まで歩く。現在の共和国議会と同じ名前であるが、930年に世界で最初に開催された民主議会を指す言葉でもあり、ノルウェーの植民地となる1262年まで300年以上続いたというから驚きである。再び車に乗って湖を見下ろす展望台に行き、プレートの境目に立って記念撮影をした後は、西に進んでレイキャビク市内に戻る。宿に帰り着いたのが午後9時半過ぎ。夕食は途中で携行食をかじっただけだけれど、フランス時間だと真夜中近くに相当するので、部屋に戻るやすぐに就寝。