2010/04/29(木)

出掛ける準備は早めに出来ていたけれど、乗り換えの都合上あまり早く出ても仕方がなかったので、列車の時間に合わせて宿を出る。中央駅の自動券売機で2等乗車券を購入してから、発車ホームを確認。長距離列車は入口に近いメインのホームから発車するので、それ程慌てることもないのだけれどね。ベンチに座って少し待ってから、入線時刻に合わせてホームに移動し、ルガーノ(Lugano)ゆきのIC(InterCity)に乗車。終着駅はスイス国内のイタリア語圏なので、ドイツ語や英語に加え、イタリア語でもアナウンスがある。国内利用は座席指定は不要なので、進行方向と予約が入っていないことを確認してから着席する。出発後程なく車内検札。チューリッヒはドイツ語圏だけど、スイス方言だと挨拶は"Grüezi!"(グリュエッツィ)となる。そして“有難う”は何故か"Merci!"(メルシー)と言うらしい。列車はチューリッヒ湖(Zürichsee)沿いに進み、晴れていて景色が綺麗なのだけれど、逆光で朝日が二重窓に写り込むので撮影は断念。ツーク(Zug)からツーク湖(Zugsee)沿いに走った後、アルト・ゴルダウ(Arth Goldau)で下車。

スイスといえばやっぱり登山列車かなと思っていたのだけれど、有名どころのツェルマット(Zermatt)やサンモリッツ(St. Moritz)とかは今回の旅程ではちょっと無理。それでもチューリッヒ近郊だと、ルツェルン(Luzern)周辺の3つの山が候補に挙がるので、そのうち通年運行の登山列車があってチューリッヒからのアクセスも便利なリギ(Rigi)を選択。という訳でアルト・ゴルダウの駅前広場に出て、少し歩いて登山鉄道の駅に移動。通しの乗車券を購入して乗り場に行くと、青い車体の電車は平日の朝でも既に満席だったので運転席の後ろでかぶりつく。リギ鉄道(Rigi Bahnen)はフィッツナウ・リギ鉄道(Vitzunau-Rigi-Bahn)とアルト・リギ鉄道(Arth-Rigi-Bahn)の総称で、19世紀末に開業したラック式の登山鉄道。ラック式鉄道は2本の通常レールの間に敷かれた歯形のラックレール(歯軌条)と、車両の歯車を噛み合わせることで急勾配を上れるようにしたもの。日本にも大井川鉄道の一部に「アプト式」のラック式鉄道があるが、リギ鉄道は両線とも「リッゲンバッハ式」のラック式で、ラックレールの形状が異なっている。続行運転をするのか定刻よりもかなり早く出発。途中の駅に停車しながら着実に急勾配を登り続け、ツーク湖を見下ろしながら山頂を目指す。稜線からアルプス(Alpen)の山々が見えるようになると、程なく終点のリギ・クルム(Rigi Kulm)に到着。

リギクルムより

駅のホームからもアルプスが眺められるのだけど、まずはすぐ近くの山頂まで歩く。より良い景色のためなら急勾配もなんのその。道端の白いクロッカスを愛でながら、電波塔を通り過ぎたあたりが最高地点となる。リギ(Rigi)連山の名前は“山々の女王”(regina montium)に由来するのだとか。その最高峰のリギ・クルムは1800m足らずで、スイスではそれ程高くはないけれど、湖に挟まれて周囲に高い山もないためとても見晴らしが良い。といっても山頂付近はなだらかな広場となっているため、ある地点から全方位が一度に見渡せる訳ではなく、違う方角の景色を見るためにはその都度場所を移動しなければならない。北東側を見下ろすとツーク湖とアルト・ゴルダウやツークの街並みが、北西側は入り組んだ形のルツェッルン湖(Vierwaldstättersee)とルツェルンなどの街並みが、そして南側にはアルプスの白い峰が連なっているのが見える。天気は快晴で、遠くはやや霞んでいるものの視界はそれ程悪くない。念のため持参したセーターが不要な程暖かかった。一通り景色を眺めた後、すぐに駅に戻れば一時間早い列車に乗れるのだけれど、それ程急いでいる訳でもないのでもう暫く滞在することに。それなら早めの昼食をということで、駅の隣にあるホテルのセルフサービス・レストランへ。折角なので料理のトレーをテラスに持ち出して、アルプスを眺めながら食べる。

リギ鉄道

食後にさっきとは違うルートを散策していたら、先程少し聞こえていたアルペンホルンが再び聞こえてくる。音を頼りに坂を上ると、民族衣装を着た人達が雄大な景色を背景に二重奏をしていた。愛好家のようなので、音程が少々不安定なのはご愛敬。山頂付近をもう一回りしたしたところで駅に戻って、帰りは隣のホームから赤い車体のフィッツナウ・リギ鉄道に乗る。最初の駅でアルト・リギ鉄道と別れ、北西側に下ってゆく。途中駅でロープウェーに乗り換えるコースもあるけれど、そのまま終点のフィッツナウ(Vitznau)まで乗り通す。駅にターンテーブルがあったので驚いたが、夏場の休日は蒸気機関車を運転しているのだったっけ。駅の目と鼻の先にある船着き場から船に乗り換えて、今度はルツェルン湖のクルーズ。天気が良いのでデッキに座って移りゆく景色を楽しむ。湖水の向こうのアルプスを後にして、ヴェークギス(Weggis)に寄港。ピラトゥス山(Pilatus)を見ながら岬を回り込み、ルツェルンで1時間弱の船旅が終了。

カペル橋

湖畔の街ルツェルンは、ロイス川(Reuss)を挟んで北側が旧市街、南側が新市街となっている。船着き場から駅前広場を通り過ぎ、河口側のゼー橋(Seebrücke)から上流側にあるカペル橋(Kapellbrücke)を眺める。カペル橋は14世紀に遡る欧州最古の木造橋で、ガイドブックには欄干に花が並んだ写真が載っていたが、花は見当たらなかった。反対側に回ってもなかったので、花を置くのは夏場だけなのだろうか。花はなくても川を斜めに横切って架かる屋根付きの木造橋は印象的で、水の塔(Wasserturm)と共に街のシンボルとなっていることにも頷ける。旧市街の広場を巡り、もう一つの木造橋であるシュプロイアー橋(Spreuerbrücke)を渡る。新市街にある2つの教会を訪れてから旧市街に戻り、湖岸沿いに歩いて高台にあるホーフ教会(Hofkirche)へ。

汗ばむ陽気の中を歩き続けてかなり疲れていたので、ガイドブックに載っていた近くのスタバで一休みしてから、ライオン記念碑(Löwedenkmal)を見に行く。池の向こうに横たわるライオンの像は、フランス革命の時に命を落としたスイス人傭兵を追悼して作られたとのこと。続いて隣にある氷河公園(Gletschergarten)を見学。なんでも19世紀にワインセラーを作ろうと地面を掘ったら、氷河の浸食跡が出て来たので保存したのだとか。渦巻き水流で石が削った穴(ポットホール)や、氷河に運ばれて取り残された岩などがある。併設の博物館には氷河や地元の文化に関する展示があったが、熊フェアー開催中につき熊の生態を紹介するコーナーがあるのはいいとして、民家の部屋を再現したコーナーに所狭しと各種テディベアが並んでいたのには驚いた。園内の物見櫓に上ってから外に出た後は、もう一頑張りということでムーゼック城壁(Museggmauer)に向かう。公開している3つの塔の詳細な場所までガイドブックには書いていなかったけれど、きっと壁沿いに歩いていけば分かるだろう~と道路と壁が交差したところにある階段を上って歩いているうちに、シルマー塔(Shirmerturm)に行き当たる。早速中に入って最上階まで上がってから、中程にある城壁の上からも街並みと湖を眺める。そのまま壁の上を歩いて隣の時計塔(Zytturm)にも入れるようになっていたので、こちらも最上階まで行っておく。時計塔の鐘が鳴り終わるのを待ってから、ルツェルン市内の鐘が鳴り始めるのだそうな。残るメンリ塔(Männliturm)は少し離れた場所にあって、壁の下を歩いて上り直す必要があったので止めておく。坂を下って旧市街経由でルツェルン中央駅(Luzern Huptbahnhof)に出て、混雑する2階建て列車に乗ってチューリッヒに戻る。

チューリッヒ名物

明日は天気が下り坂という予報なので、今日のうちにチューリッヒ湖畔からのアルプスを見ておこうと、中央駅で降りてから湖岸まで歩く。湖の向こう側には確かに白い峰が見えたけれど、空とのコントラストがあまりないので、写真に撮ってもちょっと判りづらいかな。駅に戻る途中にある"Zeughauskellar"という店に入って夕食。名前の通り昔の武器庫を利用したレストランで、チューリッヒ名物のゲシュネッツェルテス(Geschnetzeltes/仔牛肉のクリーム煮)をベルン名物の付け合わせレシュティ(Rösti/ジャガイモを焼いたもの)や白ワインと一緒に。